なぜ限定スニーカーは値上がりするのか
Nike の限定コラボスニーカーが定価 16,500 円で発売され、即日完売。翌日にはフリマアプリで 10 万円以上で出品されている。なぜこんなことが起きるのか。
答えは「需要と供給のギャップ」だ。メーカーが意図的に生産数を絞り、欲しい人の数 (需要) に対して商品の数 (供給) を大幅に少なくしている。1 万足しか作らないスニーカーを 10 万人が欲しがれば、定価で買えなかった 9 万人の中に「定価以上でも欲しい」という人が現れる。
これは希少性のマーケティングの究極形だ。メーカーは「限定」「コラボ」「抽選販売」というキーワードで希少性を演出し、ブランドの価値を高めている。大量生産すれば全員に行き渡るが、それではプレミア感がなくなり、ブランドイメージが下がる。
ここで押さえておきたいのは、値上がりしているのは靴そのものではなく「定価で買える権利」だという点だ。同じ工場で作られた同じ素材の靴が、数が絞られているだけで 10 万円になる。転売価格の大部分は、素材や縫製ではなく、定価で買えなかった人の悔しさが値段になったものだと考えると、金額の意味が見えてくる。
「値上がりする限定」と「定価割れする限定」の分かれ目
限定と書いてあれば必ず値上がりする、というわけではない。定価割れする限定品も同じくらい存在する。分かれ目になるのは、発売前の時点で「欲しい人の数」がどれだけ積み上がっていたかだ。
値上がりする側には共通点がある。コラボ相手にもともとファンがいて、発売前から SNS で話題になり、抽選の応募が締切を待たずに埋まる。逆に定価割れする側は、限定という表示だけが先にあって、話題は発売後に作られようとしている。前者は需要が供給を超えることが発売前から見えているが、後者はそれが見えない。
やっかいなのは、この判定を自分でやろうとすると読み違えることだ。転売目的で定価で買った人が定価割れを引くのは、まさにこの読み違えの結果だ。値上がりを当てにして買うなら、外れる側を引く可能性を金額として飲み込めるかを先に考える必要がある。
転売で儲かる人と損する人
転売で利益を得るには「定価で買って、定価以上で売る」必要がある。しかし、限定スニーカーの抽選倍率は 10〜100 倍にもなる。当選確率 1〜10% の抽選に何度も応募し、当選した商品を転売する。
一見すると簡単に儲かりそうだが、リスクもある。第一に、すべての限定品が値上がりするわけではない。人気が予想を下回れば、定価割れすることもある。第二に、フリマアプリの手数料 (メルカリなら 10%) と送料がかかる。第三に、偽物のリスク。転売市場には精巧な偽物が出回っており、知らずに偽物を買ってしまう (または売ってしまう) リスクがある。
買う側のリスクも大きい。定価の 5〜10 倍の価格で買ったスニーカーのリセールバリューは、トレンドが変われば急落する。「投資」のつもりで買ったスニーカーが、半年後には定価以下になることも珍しくない。
手数料と送料を差し引くと、手取りは表示価格そのままではない。フリマアプリの手数料 10% は売上から引かれるので、売値が高くなるほど引かれる金額も増える。ここに梱包の材料費と発送の手間、それに抽選へ応募し続けた時間を足すと、「儲かった」と言える水準は思ったより上にある。
応募する側が払っているのは時間というコスト
抽選倍率 10〜100 倍という数字は、当選しなかった応募がその裏に積み上がっていることを意味する。当選確率 1〜10% の抽選に何度も応募する行為は、お金は減らないが時間は確実に減っていく。
発売情報を追い、販売元に会員登録し、抽選期間中に忘れず応募し、結果を確認する。1 回あたり数分でも、外れ続ければ回数だけ積み上がる。転売で得た利益をこの時間で割ってみると、時給として見たときの水準が見えてくる。
趣味としてやるなら何の問題もない。抽選に応募する時間そのものが楽しいなら、それは支出ではなく娯楽だ。問題になるのは「効率のいい副業」として始めた場合で、そのときは減っている時間を数えないと収支が分からない。
メーカーはなぜ転売を止めないのか
「転売されるなら、メーカーが最初から高い値段で売ればいいのでは」と思うかもしれない。実際、一部のブランドはそうしている。しかし、多くのメーカーが定価を抑えている理由がある。
ブランドイメージの維持。定価 16,500 円なら「頑張れば買える」価格帯だ。これが定価 10 万円になると、一般の消費者は手が出せなくなり、ブランドの裾野が狭まる。幅広い層に「欲しい」と思わせることが、ブランド価値の源泉だ。
話題性の創出。「即完売」「転売価格 10 倍」というニュースは、それ自体が強力な広告になる。メーカーは広告費をかけずに、SNS やメディアで大きな話題を作れる。
つまり、転売市場の存在はメーカーにとって必ずしもマイナスではない。転売による「プレミア感」がブランド価値を高め、次の新作への期待を煽る。希少性を武器にしたマーケティング戦略の一部なのだ。
もっとも、無制限に放置しているわけでもない。抽選販売への一本化、会員登録や購入履歴による応募制限、一人一足の制限といった仕組みは、転売目的の大量購入を減らすために入っている。ただしこれらは転売の完全な排除を狙ったものではなく、定価で買える人の中に本当のファンをできるだけ多く含めるための調整だと考えると、実態に近い。
転売価格に踊らされないための考え方
考え方 1: 「本当に履きたいか」を自問する。転売価格 10 万円のスニーカーを買う理由が「みんなが欲しがっているから」なら、それはバンドワゴン効果に流されている可能性がある。自分が本当に履きたいデザインかどうかを冷静に考えよう。
考え方 2: 定価で買えないなら諦める。抽選に外れたら「縁がなかった」と割り切る。転売価格で買うことは、転売ヤーのビジネスモデルを支えることでもある。
考え方 3: 似たデザインの通常モデルを探す。限定コラボの元になった通常モデルは、定価で普通に買えることが多い。デザインの 90% は同じで、価格は 10 分の 1。コスパで考えれば通常モデルの圧勝だ。
フリマアプリの価格設定で解説したように、中古市場の価格は需要と供給で決まる。「今」高いからといって「ずっと」高いとは限らない。冷静な判断が、最も賢い買い物につながる。
考え方 4: 買う前に「半年後に同じ値段で売れるか」を考える。転売価格で買うということは、その価格が続く前提に乗るということだ。定価の 5〜10 倍で買った靴が半年後に定価以下になる可能性を思い出せば、履く目的で買うのか、値上がりを期待して買うのかがはっきりする。履くために買うなら価格が下がっても損はしない。値上がりを期待して買うなら、それは買い物ではなく賭けだ。
定価で買う確率を上げるためにできること
転売価格を払わない一番の方法は、定価で買える側に回ることだ。確率を大きく変える魔法はないが、応募の機会を増やす方向なら手はある。
抽選販売は、メーカーの公式アプリ・公式オンラインストア・取扱店がそれぞれ別枠で実施することが多い。1 か所に応募して外れたところで終わりにする前に、同じ商品を扱う別の窓口があるかを確認する。会員登録が必要な窓口は、発売直前ではなく普段から済ませておくと、応募のたびに手間がかからない。
それでも外れることのほうが多い。だからこそ、外れたときの代替案を先に決めておくのが効く。前の節の「似たデザインの通常モデル」を候補として先に選んでおけば、外れた瞬間に転売価格を見に行く流れを断ち切れる。抽選結果を待つ間に転売相場を眺め続けるのをやめるだけでも、判断はだいぶ変わる。
よくある質問
限定スニーカーはなぜ定価の何倍もの値段で売られているのですか?
メーカーが意図的に生産数を絞り、欲しい人の数に対して商品の数を大幅に少なくしているためです。1 万足しか作らないスニーカーを 10 万人が欲しがれば、定価で買えなかった人の中に「定価以上でも欲しい」という人が現れます。値上がりしているのは靴の素材や製造技術ではなく、定価で買える権利のほうです。
限定スニーカーの転売は必ず儲かりますか?
儲かりません。すべての限定品が値上がりするわけではなく、人気が予想を下回れば定価割れすることもあります。加えてフリマアプリの手数料 (メルカリなら 10%) と送料が売上から引かれ、偽物のリスクもあります。抽選に応募し続けた時間を含めると、「儲かった」と言える水準は思ったより上にあります。
メーカーはなぜ転売対策をもっと徹底しないのですか?
定価を抑えることでブランドの裾野を保ち、「即完売」という話題が広告費をかけずに宣伝になるためです。抽選販売への一本化や一人一足の制限といった対策は入っていますが、転売の完全な排除ではなく、定価で買える人にファンをできるだけ多く含めるための調整と考えると実態に近くなります。
転売価格で買うか迷ったときの判断基準はありますか?
「履くために買うのか、値上がりを期待して買うのか」を分けて考えることです。履くために買うなら価格が下がっても損はしません。値上がりを期待して買うなら、定価の 5〜10 倍で買った靴が半年後に定価以下になる可能性を含めた賭けになります。判断に迷うなら、同じデザインの通常モデルを先に探すほうが確実です。
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