1 円玉の製造コストは約 3 円 - 作るほど赤字の硬貨
日本の 1 円玉 (アルミニウム製、重さ 1g) の製造コストは約 3 円とされる。額面の 3 倍のコストをかけて製造される硬貨は、存在自体が経済的に非合理だ。
1 円玉だけではない。5 円玉の製造コストは約 7 円、10 円玉は約 10 円。額面と製造コストがほぼ同じか、製造コストの方が高い。硬貨の製造が「採算が合う」のは 50 円玉以上だ。
それでも 1 円玉が廃止されないのは、消費税の端数計算に必要だからだ。税込価格が 1 円単位で発生する以上、1 円玉なしでは現金取引が成立しない。しかし、キャッシュレス決済が普及すれば、物理的な 1 円玉の必要性は薄れる。
実際、日本銀行は 2022 年度から 1 円玉の製造枚数を大幅に削減している。流通量は減少傾向にあり、「1 円玉が消える日」は現実味を帯びつつある。 おつりの価格を見る →
世界の小銭廃止 - カナダ、オーストラリアの事例
小銭の廃止は、すでに複数の国で実施されている。
カナダ。2013 年に 1 セント硬貨 (ペニー) の製造を廃止した。現金取引では 5 セント単位に四捨五入される。1.02 ドルの商品は 1.00 ドルに切り捨て、1.03 ドルの商品は 1.05 ドルに切り上げ。電子決済では従来どおり 1 セント単位で精算される。
オーストラリア。1992 年に 1 セントと 2 セント硬貨を廃止。現金取引は 5 セント単位に丸められる。
スウェーデン。キャッシュレス先進国のスウェーデンでは、2010 年に 50 オーレ硬貨 (最小額面) を廃止。現金取引自体がほぼ消滅しているため、硬貨の廃止は社会的な混乱なく実施された。
これらの国の経験から、小銭廃止の影響は「ほぼゼロ」であることがわかっている。四捨五入による消費者の損得は、長期的にはほぼ相殺される。「切り上げで損する」ことを心配する声もあるが、統計的には切り捨てと切り上げが均等に発生するため、影響は無視できる水準だ。
「おつりはいりません」の経済学
タクシーやカフェで「おつりはいりません」と言う行為は、チップ文化の一種だ。日本ではチップの習慣がないとされるが、「おつりの端数を渡さない」という形で、実質的なチップが日常的に発生している。
980 円の支払いに 1,000 円を出して「おつりはいりません」と言えば、20 円のチップを渡したことになる。この 20 円は、おつりを受け取る手間 (小銭を財布にしまう時間) と、20 円の価値を天秤にかけた結果だ。多くの人にとって、20 円の小銭より、スムーズに立ち去る時間の方が価値が高い。
キャッシュレス決済では、この「おつりの端数」が消滅する。PayPay で 980 円を支払えば、ぴったり 980 円が引き落とされる。おつりの概念自体がなくなり、「おつりはいりません」という小さなチップの機会も消える。
一方で、キャッシュレス決済には「おつり貯金」の代替機能が登場している。決済額を切り上げて、端数を自動的に貯蓄口座に振り替えるサービスだ。980 円の支払いを 1,000 円に切り上げ、差額の 20 円を貯金する。デジタル時代の「おつり貯金箱」だ。
端数価格とおつりの関係 - なぜ 980 円なのか再考
プライシングの端数効果で解説した「980 円」という価格設定は、おつりの観点からも意味がある。
1,000 円札で 980 円の商品を買うと、おつりは 20 円。硬貨 1 枚 (10 円 × 2) で済む。一方、1,000 円の商品を買えばおつりはゼロ。消費者にとって、おつりの受け渡しが少ない方がストレスが小さい。
しかし、キャッシュレス決済が主流になると、おつりの煩わしさは消滅する。端数価格の心理効果 (左桁効果) は残るが、おつりの利便性という副次的なメリットは失われる。
実際、キャッシュレス比率が高い国では、端数価格の効果が薄れつつあるという研究もある。デジタル画面上で「980 円」と「1,000 円」を見比べるとき、物理的なおつりの感覚がないため、左桁効果だけが残る。将来的には、端数価格の設定方法自体が変わる可能性がある。
小銭との賢い付き合い方
小銭が完全に消えるまでの過渡期に、小銭と賢く付き合う方法をまとめる。
キャッシュレス決済を優先する。小銭の発生自体を減らす最も効果的な方法だ。PayPay や交通系 IC カードで支払えば、おつりの問題は発生しない。ポイント還元も受けられて一石二鳥だ。
小銭貯金を習慣にする。財布に溜まった小銭を定期的に貯金箱に入れる。年間で数千円〜1 万円程度になることが多い。銀行の硬貨入金手数料 (枚数に応じて有料) に注意し、一定額が貯まったら ATM で入金する。
セルフレジで小銭を消化する。スーパーやコンビニのセルフレジは、大量の小銭を投入しても嫌な顔をされない。財布の小銭を一掃するチャンスだ。
電子マネーにチャージする。一部のチャージ機は硬貨に対応している。小銭を電子マネーに変換すれば、端数なく使い切れる。
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