ATM 手数料の原価 - 1 回 220 円の手数料、ATM 1 台の維持費はいくらか

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ATM 1 台の年間維持費は 300〜500 万円

ATM は「お金を出し入れする箱」に見えるが、その維持には驚くほどのコストがかかる。

機器本体。ATM 1 台の価格は約 300〜500 万円。耐用年数は 7〜10 年で、年間の減価償却費は約 30〜70 万円。

現金の補充・回収。警備会社 (セコム、ALSOK など) が現金の輸送・補充・回収を行う。1 回あたり数万円、月に数回で年間 100〜200 万円。

通信費・電気代。ATM は 24 時間稼働し、銀行のホストコンピュータと常時通信している。年間 20〜50 万円。

設置場所の賃料。コンビニや商業施設に設置する場合、場所代が発生する。年間 50〜150 万円。

保守・修理。紙幣の詰まり、画面の故障、ソフトウェアの更新。年間 30〜50 万円。

合計すると、ATM 1 台の年間維持費は約 300〜500 万円。1 日あたり約 8,000〜14,000 円のコストが、ATM が稼働しているだけで発生している。

ATM 1 台の年間維持費の内訳 - 本文の金額を上限値でそろえた比較
現金の補充・回収100〜200 万円38% 設置場所の賃料50〜150 万円29% 機器本体の減価償却30〜70 万円13% 通信費・電気代20〜50 万円10% 保守・修理30〜50 万円10%

バーの幅は各項目の上限値を、最も大きい現金の補充・回収の 200 万円を 100% として換算したもの。右端の比率は上限値の合計 520 万円に対する割合。上限値をすべて足すと合計の上限 500 万円を超えるため、実際の 1 台ではどこかの項目が下限寄りになる。

手数料 220 円の内訳 - 誰がいくら受け取るのか

他行の ATM で時間外に現金を引き出すと、110〜220 円の手数料がかかる。この手数料はどこに流れるのか。

ATM 設置者 (コンビニ ATM の場合はセブン銀行やイーネットなど)。手数料の大部分を受け取る。ATM の維持費を賄い、利益を出すための収入源だ。

カード発行銀行 (利用者の口座がある銀行)。ネットワーク利用料として一部を受け取る。

決済ネットワーク (MICS、全銀ネットなど)。銀行間の取引を仲介するネットワークの利用料。

セブン銀行の決算資料を見ると、ATM 1 台あたりの 1 日の平均利用件数は約 90〜100 件。1 件あたりの手数料収入 (銀行から受け取る分) は平均約 100〜120 円。1 台あたりの 1 日の収入は約 9,000〜12,000 円。年間では約 330〜440 万円。

ATM の年間維持費 300〜500 万円と比較すると、利益率は決して高くない。利用件数が減ると赤字に転落するギリギリのビジネスだ。キャッシュレス決済の普及で ATM の利用件数が減少傾向にあり、ATM ビジネスの将来は楽観できない。

ATM が減っているのに手数料が下がらない理由 - 1 台あたり件数という分母

維持費は台数に比例して発生し、収入は利用件数に比例する。この 2 つが別々に動くところが ATM ビジネスの難しさだ。

キャッシュレス化で引き出しの件数が減ると、1 台あたりの 1 日の件数 (約 90〜100 件) が落ちる。維持費は年 300〜500 万円のまま動かないので、1 件に乗る原価は上がる。手数料の額を変えていなくても、採算の側では値上がりが起きている。分母が小さくなる形の値上がりだ。

この状況で銀行と ATM 運営者が取れる手は、大きく 3 つしかない。

  • 台数を減らす。店舗の統廃合、他行との ATM 共同利用、自前の機械からコンビニ ATM への置き換え。1 台あたりの件数を保つには、需要に合わせて台数の側を動かすことになる。
  • 手数料を上げる。1 件あたりの単価を上げて件数の減少を埋める。ただし上げれば引き出しを我慢する人が増えるので、件数がさらに減って効きは限られる。
  • 無料回数を絞る。手数料の表示額を変えずに、実際に払う人を増やす。値上げより目立ちにくく、抵抗も小さい。

利用者の側からは、この 3 つが「近くの ATM がなくなる」「手数料が上がる」「無料回数が減る」という形で現れる。中でも無料回数の変更は、自分の使い方が枠を超えるまで気づけない。値上げの告知より、無料に見えて払っているコストと同じ性質の変化だと考えて、条件の側を先に確認しておく方が実害を防げる。

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なぜ「時間外」に手数料がかかるのか - 実は技術的な理由ではない

「時間外手数料」という名前から、夜間や休日は ATM の運用コストが高いのかと思うかもしれない。しかし、ATM は 24 時間自動で稼働しており、時間帯によるコスト差はほぼない。

時間外手数料の本当の理由は「価格差別」だ。経済学でいう価格差別とは、同じ商品・サービスを、顧客の支払い意欲に応じて異なる価格で提供すること。

平日の日中に ATM を利用できる人は、時間に余裕がある (= 手数料を避けるために銀行の営業時間内に行ける)。一方、夜間や休日にしか ATM を利用できない人は、時間に余裕がない (= 手数料を払ってでも今すぐ現金が必要)。後者の方が「支払い意欲」が高いため、高い手数料を設定できる。

早期割引の仕組みやホテルのダイナミックプライシングと同じ原理だ。需要の高い時間帯に高い価格を設定し、需要の低い時間帯に安い (または無料の) 価格を設定する。

無料回数は「何回あるか」ではなく「どう数えられるか」 - 特典条件の 4 つの確認点

ATM 手数料の優遇は、無料回数の多さだけでは比べられない。同じ回数でも数え方が違えば、実際に払う額は変わる。確認する点は 4 つだ。

  1. 引き出しと預け入れが同じ枠か。両方を 1 つの枠で数える場合と、別枠で数える場合がある。給料日に預けて月末に引き出す使い方なら、枠の分かれ方で無料回数の体感が変わる。
  2. 数える期間がいつ切り替わるか。暦月で区切るのか、締め日で区切るのか。月末と月初に続けて引き出す使い方は、期間の切れ目をまたぐかどうかで結果が変わる。
  3. 超過分は都度課金かキャッシュバックか。後から戻る形式は、いったん払った状態が挟まる。戻る時期と、戻るための条件が付いていないかを見ておく。
  4. ランクの判定材料は何か。ネット銀行の無料回数は月 2〜15 回とランクで幅がある。判定が残高なのか取引の実績なのかで、ランクが落ちる条件も変わる。落ちれば無料回数も一緒に落ちる。

比べる順番は、無料回数の上限からではなく自分の引き出し回数からだ。月 1〜2 回で足りているなら、月 15 回無料の条件を満たすためにランクを維持する労力は使い切れない。特典の大きさではなく、自分の使い方と噛み合うかで決まる。

220 円を避けるために何分使うか - 手数料を時給で見る

手数料を避ける行動には、時間という別の費用がかかる。220 円を節約するために往復 30 分歩くなら、その時間に付いた対価は 1 時間あたり 440 円だ。同じ 220 円でも、歩いて 3 分の距離に無料の ATM があるなら避ける価値は十分にあり、乗り換えが必要な距離なら払った方が合理的なこともある。手数料を避ける行動が常に得だとは限らない。

それでも「まとめて引き出す」が勧められるのは、回数を減らすと手数料と移動時間が同時に減るからだ。避ける手間を増やすのではなく、必要な回数そのものを減らす形になる。割引の数学で扱ったとおり、率ではなく金額で見ると判断が速い。1 回 220 円は率で言えば小さく見えるが、月 4 回なら年 10,560 円で、金額として意識に残る。

ただし引き出し回数を減らすほど、手元に置く現金は増える。紛失や盗難のリスク、財布の中身が多いと支出が緩みやすいことは、手数料と反対側にある費用だ。1 回の引き出し額を無理に増やすより、キャッシュレス決済で必要な現金そのものを減らす方が、両方の費用を同時に下げられる。

ATM 手数料を年間ゼロにする 5 つの方法

ATM 手数料は、工夫次第で年間ゼロにできる。月に 4 回、220 円の手数料を払っている人は、年間 10,560 円を節約できる。

引き出し回数を減らすと年間の手数料はどう変わるか - 1 回 220 円で換算
月 4 回引き出す年 10,560 円±0 円 月 2 回に減らす年 5,280 円-5,280 円 月 1 回に減らす年 2,640 円-7,920 円

金額とバーの幅は、本文の「1 回 220 円・月 4 回で年 10,560 円」から引き出し回数だけを変えて換算したもの。最も大きい月 4 回の 10,560 円を 100% としている。右端は月 4 回と比べたときの差額。無料回数の枠内に収まる回数まで減らせば、支払いはゼロになる。

  1. ネット銀行を活用する。住信 SBI ネット銀行、楽天銀行、ソニー銀行などのネット銀行は、月に数回の ATM 手数料が無料になる特典がある。ランクに応じて月 2〜15 回まで無料。
  2. 給与振込口座の特典を使う。多くの銀行は、給与振込口座に指定すると ATM 手数料が優遇される。メインバンクの特典を確認しよう。
  3. コンビニ ATM の無料提携を確認する。自分の銀行がどのコンビニ ATM と提携しているかを確認する。提携先なら手数料が無料、または割安になる。
  4. キャッシュレス決済に移行する。そもそも現金を引き出す回数を減らす。キャッシュレス決済を日常の支払いに使えば、ATM に行く頻度は月 1〜2 回で済む。PayPay やクレジットカードを活用しよう。
  5. まとめて引き出す。ATM に行く回数自体を減らす。週に 2 回引き出すなら、月初に 1 回まとめて引き出す。引き出し回数が減れば、手数料の発生機会も減る。

よくある質問

ATM 1 台の年間維持費はいくらかかるのですか?

約 300〜500 万円です。内訳は機器本体の減価償却費が年 30〜70 万円 (本体価格 300〜500 万円を耐用年数 7〜10 年で割った額)、警備会社による現金の補充・回収が年 100〜200 万円、通信費と電気代が年 20〜50 万円、設置場所の賃料が年 50〜150 万円、保守・修理が年 30〜50 万円です。1 日あたりに直すと約 8,000〜14,000 円が、ATM が稼働しているだけで発生しています。

なぜ夜間や休日は ATM 手数料が高くなるのですか?

運用コストが高いからではありません。ATM は 24 時間自動で稼働しており、時間帯によるコストの差はほぼありません。理由は経済学でいう価格差別で、平日の日中に窓口や無料の時間帯へ行ける人と、夜間や休日にしか引き出せない人では支払い意欲が違うためです。後者に高い手数料を設定できるという構造が、時間外手数料の正体です。

ATM 手数料は年間ゼロにできますか?

できます。方法は 5 つあり、ネット銀行の無料回数 (ランクに応じて月 2〜15 回) を使う、給与振込口座の優遇を使う、自分の銀行が無料になる提携先の ATM を確認する、キャッシュレス決済に移して ATM に行く頻度を月 1〜2 回まで減らす、まとめて引き出して回数自体を減らす、の順に効きます。月 4 回 220 円を払っている場合、年 10,560 円の節約になります。

コンビニ ATM は儲かっているのですか?

利益率は高くありません。ATM 1 台あたりの 1 日の平均利用件数は約 90〜100 件、1 件あたりの手数料収入は平均約 100〜120 円で、年間の収入は約 330〜440 万円です。これに対して年間維持費は約 300〜500 万円かかるため、利用件数が減ると赤字に転落します。キャッシュレス決済の普及で件数は減少傾向にあり、台数の削減や無料回数の見直しが進む理由もここにあります。

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