ブラックフライデーの由来 - 「黒字」になる金曜日
ブラックフライデーは、アメリカの感謝祭 (11 月第 4 木曜日) の翌日の金曜日だ。クリスマス商戦の幕開けとして、小売店が大規模なセールを実施する。
「ブラック」の由来には諸説あるが、最も広く知られているのは「小売店の帳簿が赤字 (レッド) から黒字 (ブラック) に転じる日」という説だ。年間売上の大きな割合がこの日に集中するため、この 1 日で年間の赤字を解消できるほどの売上が立つ。
日本では 2016 年頃から Amazon や楽天が導入し、急速に定着した。セール時期の法則で解説した年間セールカレンダーに、新たな大型セールが加わった形だ。
しかし、ブラックフライデーの「大幅値引き」は、本当にお得なのだろうか。消費者庁や各国の調査機関が、セール価格の実態を調査している。その結果は、消費者にとって必ずしも喜ばしいものではない。
「値上げしてから値下げ」の実態
ブラックフライデーで最も問題視されているのが、「セール前に値上げし、セール時に元の価格に戻して『○% オフ』と表示する」手口だ。
イギリスの消費者団体 Which? の調査によると、ブラックフライデーの「セール品」の大半は、年内の別の時期にも同じ価格かそれ以下で販売されていた。つまり、「特別に安い」わけではなく、通常の価格変動の範囲内だった。
仕組みだけを取り出すと単純だ。セールの直前に「通常価格」の表示を引き上げておけば、実際に売る価格を据え置いたままでも、割引率の表示だけが大きくなる。買い手が見ているのは「○% オフ」という比率であって、比較の起点になった価格が直前まで本当にその値段で売れていたのかは、商品ページからは分からない。
値上げの心理学で解説した「シュリンクフレーション」と同様に、消費者が気づきにくい形で実質的な値引き幅を小さくする手法だ。割引の数学を使って、「元の価格」が本当に妥当かどうかを検証する習慣が必要だ。
「元の価格」を検証する手順 - 割引率ではなく価格の履歴を見る
表示された割引率が妥当かどうかは、比較の起点になった価格を確かめない限り判断できない。この確認は買い手の側でもできる。見る順番を先に決めておけば、セール当日に迷う時間は短くなる。
手順の内容はこの記事で扱った確認方法をまとめたもの。価格履歴が取得できるかどうかは、商品や販売形態によって変わる。
価格追跡ツールを使う。Amazon の価格推移を確認できるブラウザ拡張機能 (Keepa、camelcamelcamel) を使えば、過去の価格推移が一目でわかる。「ブラックフライデー価格」が本当に最安かどうかを、データで判断できる。
レビュー経済の裏側で解説したように、セール時は「お得感」に流されて冷静な判断ができなくなりやすい。価格追跡ツールは、感情に流されないための強力な武器だ。
本当にお得な商品とそうでない商品
ブラックフライデーで本当にお得になる商品と、見せかけだけの商品を見分けるポイントをまとめる。
本当にお得になりやすい商品。型落ちの家電製品 (新モデル発売後の旧モデル)、Amazon デバイス (Echo、Fire TV、Kindle)、ゲームソフト (発売から半年以上経過したもの)、日用品の大容量パック。これらは在庫処分の意味合いが強く、実質的な値引きが大きい。
見せかけの値引きが多い商品。ファッション (「参考価格」が恣意的に設定されやすい)、ノーブランドの家電 (元の価格自体が不透明)、「ブラックフライデー限定モデル」(比較対象がないため割引率を検証できない)。
この 2 つを分けているのは、値引きの理由がはっきりしているかどうかだ。型落ちや在庫処分には「なぜ安くするのか」という説明がつく。一方、比較対象のない限定モデルは、安くする理由も、安くなっている証拠も外から確かめられない。
「今だけ」が判断を急がせる - 期間そのものが仕掛けになる
ブラックフライデーの厄介さは、価格の表示だけにあるわけではない。期間が区切られていること自体が、価格の履歴を確かめる手間を省かせる方向に働く。
残り時間のカウントダウン、在庫の残数表示、「タイムセール」という枠。いずれも「今すぐ決めなければ機会を失う」と感じさせる仕掛けだ。限定品に弱い心理で解説したとおり、人は選択肢が減っていく状況では、価格そのものより「取り逃す」ことを避けようとする。
この状態で困るのは、前の節で挙げた確認手順が「面倒な作業」に見えてしまうことだ。価格推移を開いて過去の最安値と比べるのは 1 分もかからないが、カウントダウンを見ながらだと、その 1 分が惜しくなる。
対策は単純で、確認の作業をセール当日に持ち込まないことだ。買う候補が決まっているなら、価格の履歴はセールが始まる前に見ておける。当日にやることを「最終価格が予算内かどうかの確認」だけに減らしておけば、急かされても判断の質は落ちない。
ブラックフライデーで賢く買い物する 5 つのルール
ブラックフライデーを賢く活用するためのルールをまとめる。
- 買い物リストを事前に作る。セール前に「本当に必要なもの」をリストアップする。セール当日にリストにないものは買わない。限定品に弱い心理に対抗する最も効果的な方法だ。
- 価格追跡ツールで過去の最安値を確認する。ブラックフライデー価格が過去の最安値を下回っているかどうかを確認する。下回っていなければ、急いで買う必要はない。
- 「○% オフ」ではなく「最終価格」で判断する。70% オフでも、最終価格が自分の予算を超えていれば買わない。割引の数学で解説したように、割引率に惑わされず、支払う金額で判断する。
- ポイント還元を含めた実質価格で比較する。Amazon、楽天、Yahoo! ショッピングで同じ商品の価格を比較する。ポイント経済圏を考慮した実質価格で判断する。
- 返品ポリシーを確認する。返品ポリシーの心理学で解説したように、返品可能な商品なら「とりあえず買って、冷静になってから判断する」という選択肢もある。セール品の返品条件が通常と異なる場合があるので、事前に確認しよう。
その日に買わない選択 - 次の機会までの距離を測る
ここまでの手順を通しても条件を満たさなかったとき、残る選択は「買わない」ではなく「次の機会まで待つ」だ。この 2 つは似ているが、判断の中身が違う。
ブラックフライデーは年間のセールの中の 1 つでしかない。セール時期の法則で解説したように、商品のカテゴリごとに値下がりしやすい時期があり、決算期や新モデルの発売もその周期に組み込まれている。次に同じ水準の価格が出る時期がおおよそ分かっていれば、今日見送っても失うものは小さい。
逆に、次の機会が読めない買い物は判断が難しくなる。生産が終わった型番や、在庫がなくなれば終わりの処分品は、待っても価格が下がらないまま選択肢だけが消える。「待てるもの」と「待てないもの」を分けておくと、当日の迷いは減る。
そして、買わなかった買い物の効果は数字に出ない。年間の支出を押し下げるのは値引き率の大きい買い物ではなく、リストに入っていなかった買い物を止めた回数だ。返品ポリシーの心理学で触れたように、返品という出口が用意されている場合でも、手続きの手間まで含めれば見送りの方が安く済むことは多い。
よくある質問
ブラックフライデーの「○% オフ」はそのまま信じてよいのですか?
表示された割引率だけでは判断できないとお考えください。割引率は「元の価格」との比率であり、その元の価格が直前まで実際に売れていた価格かどうかは商品ページからは分かりません。イギリスの消費者団体 Which? の調査では、セール品の大半が年内の別の時期にも同じ価格かそれ以下で販売されていたと報告されています。
本当に安くなりやすいのは、どんな商品ですか?
値引きの理由がはっきりしている商品です。新モデル発売後の型落ち家電、Amazon デバイス、発売から時間が経ったゲームソフト、日用品の大容量パックなどは在庫処分の意味合いが強く、実質的な値引きが大きくなりやすいです。逆に「参考価格」が恣意的に設定されやすいファッションや、比較対象のないセール限定モデルは、割引率そのものを検証できません。
価格追跡ツールでは何を見ればよいのですか?
過去の最安値と、セール直前の価格の動きの 2 点です。今回の価格が過去の最安値を下回っているかを確認し、あわせて「通常価格」の表示がセール前に引き上げられていないかを見ます。どちらも満たしていれば実質的な値引きと判断でき、満たしていなければ急いで買う必要はありません。
買うかどうか迷ったときは、どう判断すればよいですか?
「買わない」ではなく「次の機会まで待てるかどうか」で考えると決めやすくなります。カテゴリごとに値下がりしやすい時期があるため、次に同じ水準の価格が出ると見込めるなら見送っても損はしません。一方で生産終了品や在庫限りの処分品は待っても下がらないため、待てるものと待てないものを事前に分けておくのが有効です。
この記事をシェア
この記事は役に立ちましたか?