保険料のうち保険金になるのは一部にすぎない
生命保険の保険料は、大きく 3 つの要素で構成されている。
純保険料。実際に保険金として支払われる部分。死亡率や入院率などの統計データに基づいて算出される。
付加保険料。保険会社の運営経費にあたる部分。営業職員の人件費、広告宣伝費、オフィスの賃料、システム維持費などが含まれる。対面販売を主とする会社では、この人件費が経費の大きな部分を占めるとされる。
利益。保険会社の利益にあたる部分。
この 3 つの比率は会社や商品によって幅があり、契約者に渡される資料で内訳まで示されないことも多い。ただ、順番だけは変わらない。保険料は「保険金の原資」に「経費と利益」を上乗せして決まるため、契約者全体で見れば、払った保険料の合計より受け取る保険金の合計のほうが必ず小さくなる。宝くじの期待値で解説した構造と、上乗せがあるという点では同じだ。
数学的に見れば、保険は「期待値がマイナスの賭け」だ。それでも保険が存在し、多くの人が加入する理由は何か。
保険の本質は「期待値」ではなく「リスク移転」
保険を期待値で評価するのは、実は間違っている。保険の本質は「低確率だが発生したら壊滅的な損失」を、「確実だが小さな支出 (保険料)」に変換する仕組みだ。
数字を仮に置いて考えてみよう。30 歳の人が 60 歳までに亡くなる確率を仮に 5% とする。死亡保険金 3,000 万円の掛け捨て保険に月額 3,000 円で加入すると、30 年間の総支払額は 108 万円。受け取り額の期待値は 3,000 万円 × 5% = 150 万円で、この置き方なら「得」に見える。ただしこれは経費と利益を上乗せする前の計算で、確率をわずかに低く置き直せば結論は反転する。実際の保険料は、保険会社が見込んだ確率に経費と利益を足した水準に決まっている。
しかし、重要なのは期待値ではない。「5% の確率で家族が 3,000 万円を失う」リスクと、「確実に月 3,000 円を支払う」コスト。どちらが家計にとって致命的かを考えれば、答えは明らかだ。
保険は「損得」ではなく「安心」を買う商品だ。保証延長サービスの損得で解説した家電の延長保証とは、リスクの大きさが根本的に異なる。家電が壊れても生活は破綻しないが、一家の大黒柱が亡くなれば家計は破綻しうる。
公的保障という「すでに入っている保険」
民間の保険を検討する前に、確かめておくべきものがある。会社員や公務員なら、毎月引かれている社会保険料の対価として、すでにかなりの保障を持っているという事実だ。
働き手が亡くなったときには遺族年金があり、加入していた制度や子どもの人数によって支給内容が変わる。病気やけがで働けなくなったときには、健康保険から傷病手当金が支給される。入院や手術で医療費が高額になったときには高額療養費制度があり、自己負担は所得に応じた上限額までにとどまる。
民間の保険が埋めるべきなのは、この公的保障で足りない差額だけだ。ところが保険の相談では、公的保障を差し引く前の「万一のときに必要な金額」から話が始まることがある。出発点が違えば、必要とされる保障額は大きく変わってしまう。
先に自分の公的保障を調べ、そのうえで足りない額を出す。順番を逆にしないことが、余分な保険料を払わないための最初の一歩になる。
入るべき保険と入らなくてよい保険
保険の原則は「低確率 × 高損害」のリスクにだけ加入すること。自分で負担できる損失に保険をかけるのは、期待値的に損だ。
入るべき保険。自動車保険 (対人・対物): 事故で数千万〜数億円の賠償責任が発生しうる。火災保険: 住宅が全焼すれば数千万円の損失。生命保険 (扶養家族がいる場合): 一家の収入が途絶えるリスク。これらは「発生したら自力で回復できない」損失だ。
入らなくてよい保険。スマホの保険 (月額数百円): スマホの修理費は数万円。貯金で対応できる。ペット保険: 治療費の上限が見えている。がん保険 (十分な貯蓄がある場合): 高額療養費制度で自己負担は月 8〜9 万円程度に抑えられる。
判断基準はシンプルだ。「その損失が発生したとき、貯金で対応できるか」。対応できるなら保険は不要。対応できないなら保険に入る。割引の数学と同じで、感情ではなく数字で判断することが重要だ。
迷ったときは「貯金で払えるか」から考える
入るべきか迷う商品に出会ったとき、考える順番を決めておくと判断がぶれない。ここまでに挙げた基準を、そのまま上から並べたのが次の図だ。
図の 3 つの問いは本文で挙げた判断基準を並べ替えたもので、新しい基準を加えたものではない。どこで線を引くかは家計の状況によって変わる。
この順番の利点は、営業の話のうまさや、そのときの不安の強さに左右されにくいところだ。「起きたら困る」で判断すると、ほとんどの商品が必要に見えてしまう。「起きたら払えない」で判断すれば、対象はかなり絞られる。
また、1 の答えは時間とともに変わる。貯金が増えれば自分で払える範囲が広がり、いま必要な保険も将来は不要になる。契約したまま放置せず、数年ごとにこの順番をもう一度たどるのが望ましい。
保険料を下げる 4 つの方法
必要な保険に加入した上で、保険料を最小化する方法をまとめる。
- ネット保険を選ぶ。対面販売の保険は、営業職員の人件費が保険料に上乗せされている。ネット保険 (ライフネット生命、SBI 生命など) は、この人件費を削減しているため、同じ保障内容で保険料が 20〜40% 安い。
- 保障額を適正化する。「とりあえず 5,000 万円」ではなく、遺族の生活費、住宅ローンの残債、子どもの教育費を具体的に計算し、必要最小限の保障額に設定する。過剰な保障は無駄な保険料の原因だ。
- 定期的に見直す。子どもが独立したら死亡保険の保障額を減らす、住宅ローンを完済したら団信の分を減らす。ライフステージの変化に合わせて保障内容を見直すことで、不要な保険料を削減できる。サブスクの棚卸しと同じ発想だ。
- 公的保障を理解する。日本の公的保障は手厚い。遺族年金、高額療養費制度、傷病手当金。これらの公的保障でカバーされる部分は、民間保険で重複して加入する必要がない。
保険料が下がらない家計に共通する 3 つのパターン
見直したつもりでも保険料が下がらない家計には、いくつか共通する形がある。
特約の積み上げ。主契約は小さいのに、通院・先進医療・女性疾病・がん診断といった特約が何本も付いている。一本ずつは小さな額でも、合計すると主契約に近い負担になっていることがある。特約は加入時に勧められて付けたまま、内容を覚えていない場合が多い。証券を開いて、いま何に対して払っているのかを書き出すところから始めたい。
保障と積立の同居。終身保険や学資保険のように、保障と貯蓄が一つの商品になっているもの。保険料を下げようとすると保障だけでなく積立部分にも手が入り、途中でやめれば解約返戻金が払込額を下回る期間もある。判断が難しくなるのは商品が悪いからではなく、二つの目的が一本の契約に束ねられているからだ。新しく入るなら、保障は保障、貯蓄は貯蓄で分けたほうが後から動かしやすい。
不安を起点にした加入。身近な人の病気や、統計を並べた説明をきっかけに入った契約。必要な保障額を計算した結果ではないため、いくら払えば安心なのかの上限がない。この形の契約は、金額を見直しても不安が残るので元に戻りやすい。
3 つはいずれも、入るときの理由が家計の計算ではなくその場の安心だった点で共通している。逆に言えば、必要な額を一度きちんと出しておけば、保険料は自然に下がっていく。
よくある質問
貯蓄型の保険なら、掛け捨てより得になるのでしょうか?
得になるかどうかは、保障と貯蓄を分けた場合と比べてはじめて判断できます。貯蓄型の保険料にも保障の原価と保険会社の経費が含まれているため、積立に回る部分は払った額より小さくなります。また、途中で解約すると解約返戻金が払込額を下回る期間があり、家計が苦しくなったときに動かしにくいという弱点もあります。掛け捨ての保険料と貯蓄を別々に管理すれば、必要な保障だけを残して貯蓄の方針は自由に変えられます。貯蓄型を選ぶなら、強制的に積み立てられる仕組みそのものに価値を感じるかどうかが判断の分かれ目です。
医療保険は本当に入らなくてよいのでしょうか?
一律に不要というわけではなく、貯金と公的保障で足りるかどうかで決まります。健康保険には高額療養費制度があり、医療費の自己負担は所得に応じた上限額までにとどまります。会社員なら傷病手当金もあるため、入院が家計を壊す事態にはなりにくい構造です。したがって、数か月分の生活費を貯金で確保できているなら、医療保険の優先度は下がります。逆に、貯金が乏しい時期、自営業で傷病手当金がない場合、差額ベッドや先進的な治療を自分の選択肢として持っておきたい場合には、入る意味があります。
ネット保険は保険料が安い分、保障も弱いのではないでしょうか?
保険料の差は、主に販売のしかたの違いから生まれます。対面販売では営業職員の人件費が保険料に乗りますが、ネット経由の契約ではその部分が小さくなります。同じ保障内容なら支払われる保険金は同じで、どの保険会社も金融庁の監督下にあり、契約者保護の仕組みも共通です。ただし、商品の種類は絞られていることが多く、複雑な特約や対面での相談を前提にした設計は選べません。保障内容を自分で決められる人ほど、ネット保険の価格差がそのまま利益になります。
若いうちに入ったほうが、保険料は安く済むのでしょうか?
月々の保険料は若いほど安く設定されますが、支払う期間はその分長くなります。総額で見れば、早く入るほど安く済むとは限りません。より重要なのは、その時期に本当に守るべき対象があるかどうかです。扶養する家族がいない時期に大きな死亡保障を持っても、守る対象がないまま保険料を払い続けることになります。「若いうちのほうが安い」は加入を急がせる説明として使われがちですが、必要になった時点で入るのが原則です。健康状態によって加入しにくくなる可能性は、その原則を覆すほどの理由にはなりません。
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