ペットボトルの水で比べる - 68 円 vs 110 円 vs 130 円の謎
500ml のペットボトルの水を例に考えてみよう。同じメーカーの同じ商品が、買う場所によってこれだけ値段が違う。
スーパーの特売: 68 円。ドラッグストア: 78 円。コンビニ: 110 円。自動販売機: 130 円。駅の売店: 140 円。映画館の売店: 200 円。テーマパーク内: 250 円。
最安値と最高値で 3.7 倍もの差がある。中身はまったく同じ水なのに、だ。この価格差の正体は「場所代」と「便利さの対価」だ。ペットボトルの水の原価で詳しく解説しているが、水そのものの原価は 1〜2 円程度。残りはすべて、容器代、輸送費、店舗の家賃、人件費、そして「利益」だ。
倍率はスーパーの特売 68 円を 1.0 としたもの。中身は同じ水で、上乗せ分はすべて場所代と便利さの対価にあたる。ここに挙げた金額はこの記事で例に使った価格で、実際の売値は店舗ごとに違う。
同じ商品が店に届くまで - 値札の差が生まれる場所
値段の差を「店が強欲だから」で片づけると、そこで話が終わってしまう。同じ水が違う値札を付けられるまでに何が起きているのかを、順番に追ってみよう。
差が生まれる最初の場所は、仕入れの単位だ。トラック 1 台分をまとめて引き取る店と、他の商品と混ぜて少しずつ受け取る店では、1 本にかかる輸送費が違う。同じ距離を運ぶトラックの費用は、積んだ本数で割り算される。大量にまとめれば 1 本あたりの負担は小さくなり、少しずつ受け取れば大きくなる。
次が配送の回数だ。コンビニのような小さな売り場は在庫を置く場所がないので、1 日に何度も配送を受ける。売り切れを出さないための仕組みだが、その回数分の費用がどこかに乗る。まとめて受け取って倉庫に積んでおける店は、この費用を圧縮できる。
最後に売り場そのものの費用がある。家賃、電気代、そこに立つ人の人件費。これらは売れた本数で割られるので、たくさん売れる店ほど 1 本あたりの負担が軽くなる。ペットボトルの水の原価で見たように中身が 1〜2 円しかしない商品では、この「割り算の分母」がそのまま値札の差になる。
つまり値段の差は、店が後から勝手に上乗せした金額ではなく、その店の売り方から自動的に決まってくる数字だ。だから同じ商品でも、店の形が違えば値段は違って当たり前ということになる。
値段が安い店の秘密 - 薄利多売という戦略
スーパーやドラッグストアが安い理由は「薄利多売」だ。1 個あたりの利益を小さくする代わりに、大量に売ることで全体の利益を確保する。
たとえば、水 1 本の利益が 5 円でも、1 日に 500 本売れば 2,500 円の利益になる。コンビニは 1 本の利益が 30 円でも、1 日に 50 本しか売れなければ 1,500 円だ。1 本あたりの利益を並べただけでは、どちらが儲かっているのか判断できない。
| - | 1 本あたりの利益 | 1 日に売れる本数 | 1 日の利益 |
|---|---|---|---|
| スーパー | 5 円 | 500 本 | 2,500 円 |
| コンビニ | 30 円 | 50 本 | 1,500 円 |
この記事で例に使った数字での比較。1 本あたりでは 6 倍の差をつけられているスーパーが、売れる本数で逆転している。安い値段を選べるかどうかは、その店にどれだけ客が来るかで決まる。
この形が取れる店は、値段を下げること自体が客を呼ぶ手段になる。逆に客数が増やせない立地の店が同じ値段にすると、1 日の利益が足りなくなって店を続けられない。
ドラッグストアが安い理由で解説したように、ドラッグストアは食品や飲料をロスリーダー (目玉商品) として安く売り、来店した客に利益率の高い医薬品や化粧品を買ってもらう戦略を取っている。安い商品には、必ず「安くできる理由」がある。
値段が高い店の秘密 - 「便利さ」にはお金がかかる
コンビニや自動販売機が高いのは、「便利さ」のコストが上乗せされているからだ。コンビニは 24 時間営業で、深夜でも歩いて数分の場所にある。この便利さを維持するには、深夜の人件費、駅前の高い家賃、小ロットでの頻繁な配送コストがかかる。
自動販売機の経済学で解説したように、自動販売機の価格プレミアムは「今すぐ、目の前で買える」という即時性の対価だ。喉が渇いた瞬間に、スーパーまで 10 分歩いて 40 円安く買うか、目の前の自動販売機で 130 円払うか。多くの人は後者を選ぶ。
映画館やテーマパークが特に高いのは、「そこでしか買えない」という独占状態にあるからだ。映画館に自分の飲み物を持ち込めないルールがあるのは、この独占価格を維持するためでもある。
同じチェーンなのに店舗で値段が違うことがある
ここまでは店の種類による違いを見てきたが、看板が同じチェーンの中でも値段は一致しないことがある。駅の改札の内側、空港、高速道路の休憩所、観光地の目の前。こうした場所の店は、同じ看板でも売値が高めに置かれていることがある。
理由は前の節と同じで、そこに店を出す費用が違うからだ。人の流れが多い場所の家賃は高く、営業できる時間や搬入の経路にも制約がつく。売り場の広さが取れないので置ける商品も絞られる。その条件で採算を合わせるには、値段を動かすしかない。
これは客の側から見ると分かりにくい差だ。看板が同じなら値段も同じだと思って手に取るので、レジで気づくことになる。自動販売機の経済学で見た立地による価格の違いと同じ現象が、店舗の中でも起きていると考えればいい。
覚えておくと役に立つのは、「移動の途中にある店は高いことがある」という目安だ。改札の中で買うか、いったん外に出て買うか。その数分の差が値札に乗っている場合がある。急いでいないときだけ、値札を確認する余裕を持てばいい。
高いほうを選んだほうがいいときもある
安い店を探すのが常に正解とは限らない。ここを取り違えると、節約したつもりで損をすることになる。
比べる相手は値段の差だけではなく、そこにかかる時間と交通費だ。40 円安く買うために往復 20 分歩いたとして、その 20 分に何をしていたか。バスに乗って買いに行けば、運賃で差額は消える。1 本の水のために遠くの店へ行く判断は、たいてい合わない。
安く買ったのに使い切れない場合も同じだ。まとめ買いは 1 個あたりを下げる代わりに、家に置いておく量が増える。飲みきる前に賞味期限が来たり、置き場所に困って結局処分したりすれば、支払った金額はまるごと無駄になる。安さは、使い切れる量の範囲でだけ意味を持つ。
コンビニや自動販売機が高いのは事実だが、その値段は「今すぐ、目の前で手に入る」ことへの支払いだ。熱中症になりそうな暑さのなかで水を我慢する、待ち合わせに遅れる、体調を崩す。これらを避けられるなら、130 円は高くない。ロスリーダーのような売り手側の仕掛けを知る目的も、安い店に固定することではなく、今どちらを選ぶべきかを自分で決められるようになることにある。
賢い買い物の基本 - 「どこで買うか」を意識するだけで節約できる
同じ商品でも買う場所で値段が違うことを知っていれば、「どこで買うか」を意識するだけで節約できる。具体的なルールは 3 つだ。
ルール 1: 計画的な買い物はスーパーかドラッグストアで。週末にまとめて買い物をする習慣をつければ、コンビニ価格との差額が積み上がる。月に 20 本の飲み物を買う人なら、スーパー (68 円) とコンビニ (110 円) の差額は月 840 円、年間で約 1 万円だ。
ルール 2: 水筒を持ち歩く。家で作ったお茶を水筒に入れて持ち歩けば、飲み物代はほぼゼロになる。ティーバッグ 1 個 (約 5 円) で 500ml のお茶が作れる。自動販売機の 130 円と比べれば、1 回で 125 円の節約だ。
ルール 3: 「緊急の買い物」を減らす。コンビニや自動販売機を使うのは「今すぐ必要」なときだけにする。事前に準備しておけば、高い「便利さの対価」を払わずに済む。
コンビニの値引き戦略を知っていれば、どうしてもコンビニで買うときでも、値引きシールの商品を狙うことで出費を抑えられる。
よくある質問
メーカーはなぜ、店ごとの値段をそろえないのですか?
メーカーが小売店に売値を守らせることは、原則として認められていません。いくらで売るかを決めるのは、仕入れた店の側です。だから同じ商品が、置かれた店の事情に応じて違う値札を付けられます。値段がそろっていないのは仕組みの不備ではなく、店どうしが値段で競い合える状態が保たれている結果です。もし全店で同じ値段に固定されていたら、この記事で見た 68 円という選択肢は存在しません。
コンビニで買うのは損なのでしょうか?
値段だけを並べれば高いほうを選んでいることになりますが、買っているものが値段だけではありません。深夜でも開いていて、歩いてすぐの場所にあって、並ばずに買える。この条件を維持する費用が値札に乗っています。損か得かは、その条件が今の自分に必要かどうかで変わります。毎日の飲み物をすべてコンビニで買えば差額は積み上がりますが、急に必要になった 1 本を 110 円で買えることは損ではありません。
安い店をはしごすれば、いちばん得になりますか?
品目が多いときは効果が出ますが、少しの買い物では逆になりがちです。店を 1 軒増やすたびに移動の時間がかかり、交通費が乗ることもあります。水 1 本のために 40 円の差額を追うと、歩いた時間のほうが高くつきます。現実的なのは、よく買うものを 2 つか 3 つ決めて、その値段だけを覚えておく方法です。全品を比べようとすると続かず、結局いつもの店に戻ることになります。
セールの値段は、ふだんが高すぎるということですか?
必ずしもそうとは言えません。安く売れる理由には、期限が近い、季節が終わる、来店のきっかけとして選ばれた、といったものがあります。この記事で見た 68 円は特売の値段で、同じ店でもふだんはもう少し高いことがあります。判断の材料になるのは、その店のふだんの値段を知っているかどうかです。ふだんを知らないまま「セール」という表示だけで安いと判断すると、値引き前の金額が高めに置かれていても気づけません。
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